産業の興隆に沸く60~70年代のイギリスでは、石炭を燃料とする蒸気機関車や発電所からの排煙などで大気汚染に悩まされていました。特にロンドンなどの都市部ではスモッグが大きな問題となっており、政府は大気汚染対策としてクリーン・エアー法を施行し、都市部での暖房機器の排煙規制を設けました。
※都市部での排煙規制は現在でも続いています。
従来イギリスでは伝統的なオープン暖炉が広く普及しており、もともと産業革命の際から石炭を積極的に使用していたこともあって暖炉の燃料も主に石炭が採用されてきました。
80年代に入り、国の推奨により環境対策として燃料を石炭からバイオマス資源に変換する取り組みが始まると、イギリス国内では暖炉や薪ストーブを製造するメーカーが多く設立されます。
彼らは、ユーザーが燃料の切り替えに不安を持たないよう薪と石炭を併用できるマルチフュエル(多燃料)対応の暖炉を積極的に発表することで、民衆の不安を煽ることなく石炭から薪へ燃料の転換を図りました。
更に90年代に入ると、環境問題に対する取り組みにより一層力を入れ、マルチフュエル対応から薪のみを使用する暖炉への切り替えが積極的に推奨・採用されました。
結果、石炭を使用するオープン暖炉は大幅に減少していきます。
2000年以降になると、暖炉より燃焼効率の良い密閉式フリースタンディング型の薪ストーブが重点的に開発・発表され、オープン暖炉から効率的な薪ストーブへ切り替える人が増えていきました。
現在イギリスでは国内では薪ストーブ人気が急激な盛り上がりを見せ、既に150万人以上が暖炉や薪ストーブを使用していると推測されています。
また、現代では燃料の製造段階から二酸化炭素の排出量を考慮し試算する「カーボンニュートラル」の考え方が浸透しています。
現代の効率的な燃焼機構を備えた薪ストーブは、1kWhあたりの二酸化暖素排出量は0.008㎏です。ガスの0.198㎏、電気の0.157㎏と比較するとはるかに薪ストーブが優秀な数値であることが分かります。政府が薪ストーブの普及に力を入れるのも、こういった背景があります。
現在イギリスでは、国内だけで毎年約17万台もの薪ストーブや暖炉が流通しており、ヨーロッパ最大の市場です。
それに伴い、イギリス政府は薪ストーブの拡販により2020年までに二酸化炭素の排出をおよそ10%削減できると試算し、バイオマス燃料の使用を国内エネルギー総使用量の25%にまで引き上げる目標を掲げました。今、イギリスは薪ストーブの普及に世界でもっとも「熱い」国なのです。
2000年以降、イギリスでは小排煙、高効率のストーブを求める動きが加速しました。
イギリス政府は、それに伴いストーブや暖炉に対し認証制度を設けることで環境対策を行なうことにしました。
まずEU基準をベースとしたバイオマスと固形燃料に関する「HETAS」を導入、続いてイギリス国内での厳しい排煙レベル規制(排煙内の一酸化炭素排出量を制限する)として「DEFRA」(Department of Environment, Farming and Rural Affair)が導入されます。
「DEFRA」の認証を得たストーブは、現在も続いている都市部での排煙規制区域内での薪ストーブの使用が認められるため、暖炉から「DEFRA」認証のストーブに買い替える動きが加速しました。
更に2020年にはヨーロッパ全体で、この「DEFRA」を基準に、「燃焼効率80%以上」という高いハードルを設けた「Eco-Design A」が施行されることが決まっています。
この時点でこの3種の認証を得るイギリスの薪ストーブは、世界でもっとも厳しい排煙、燃焼効率規制をクリアする薪ストーブとなります。
チェスニーズは、薪ストーブ人気が高まるなか、1984年にマントルピースと薪ストーブのデザインオフィス、製造メーカーとしてロンドンのバタシーパークに誕生しました。
イギリスは2000年代に入り、「古くて新しい」をキーワードにポップ、カルチャー、ファッションの基点として、パリやニューヨーク、イタリアにかわって世界に冠たるポジションを築きます。ロンドンはまさにその中心発信地です。
ロンドンに拠点をおいたチェスニーズは薪ストーブについては初めからデザイン性に優れたラグジュアリーな、そしてシンプルで高性能なストーブを目指してスタートします。
チェスニーズ・ストーブの特徴はその「古くて新しい」を表現したUKデザイン、Light Feeling = 従来のキャストアイアン(鋳鉄)神話にこだわらず、ボディーに5mm厚の鋼鈑を使用し部品点数を最小限に抑えることで「シンプル&丈夫」を実現したこと、そして決して家が大きくないロンドンなど都心部の住宅にも設置できるようRight Size = コンパクト/ミドルサイズでも高性能な点に集約され、まさに日本の住宅事情にフィットする条件を備えています。
チェスニーズのストーブは、主要モデルのドア、天板、ベース(脚)は鋳鉄を採用し、ドイツの工場で生産します。それらはベルギーの板金工場に送られ、本体は5mmの厚い鋼板と一緒に組みあげます。ハイセンスなイギリスデザイン、ドイツでの高品質な鋳鉄部品の製造、ベルギーでの鋼板本体の製造とアッセンブリング(組み立て製造)により、高い次元で品質を確保しています。
イギリス国内で年間17~18万台が流通しているイギリス市場で、およそ12000台のシェアを誇ります。これはホームセンターなどに卸す安価な量産スタイルのメーカーを除く、代理店制度を用いた専門メーカーとしてはトップです。
チェスニーズの薪ストーブはすべて、HETAS、DEFRAの認証を取得しており、現在はほとんどのストーブが2020年施行のEco-Design Aの基準に既に達しています。2022年までには全てのモデルが認証を得る予定です。
チェスニーズは、2017年にユーザーが全てのラインナップを見ることができる新しいショールームをロンドン郊外のハバーストックヒルにオープンしました。
これを機に発表したのが、屋外でバーベキューなど楽しめる「アウトドア・リビング」シリーズの薪・炭兼用のクッキング&バーベキューストーブです。発表とともに瞬く間に大人気となり、現在は生産が追い付かない状況です。
現在3つのモデルで展開していますが、来年は早々に4つ目のモデルが発表される予定です。
また、もう一つの核となる商材であるマントルピースの売り上げはすさまじく、年間8~9万個を出荷しています。2018年にはニューヨークにマントルピース専門のショールームをオープンするなど、ハイセンスなデザインを強みに勢いのある企業として、業界をけん引しています。
今イギリスで最も勢いあるブランド、それがチェスニーズです。